認知神経科学とリベラルアーツの視点から - from the viewpoint of cognitive neuroscience and liberal arts

山岸典子 Noriko Yamagishi: 認知神経科学者として伝えたいこと

勉強へのモチベーションを維持させる感謝の気持ち【高校生】

 

f:id:n_yamagishi:20220220185906j:plain

                                            西芳寺 (苔寺), Kyoto 2022

 

10代の人たちの学習モチベーションは時間と共に下がる傾向にあることが知られています。新しいことをどんどん学んでもらいたい若い世代の学習モチベーションを維持するにはどうしたらいいでしょうか。

感謝をすることで大学生の学習モチベーションが向上することを示した私たちは*1、もっと若い人たちの学習モチベーションにも感謝が良い影響を与えるのではないかと仮説をたてました。

「感謝日記と「良いこと日記」を高校生に9週間書いてもらう

私と、共同研究者の山中氏とNawa氏は、この仮説を検証するために高校生を対象とした感謝の介入実験を行いました*2。ここでは私の勤務する立命館大学に推薦入学が決まった高校生34人を、ランダムに2つのグループに分けました。どちらのグループにも毎日日記をつけてもらいますが、一つのグループは実験グループで「その日に感謝したこと」(感謝日記)を、もう一つのグループはコントロールグループで「その日にあった良かったこと」(良いこと日記)を書いてもらいました。日記の内容が違うこと以外は、どちらのグループにも同じことをやってもらっています。期間は9週間で、実験の直前と毎週末に(つまり0週目から9週目までの全部で10回)、複数の心理指標(感謝特性、幸福度、気分尺度、学習モチベーション)を計測し、感謝することによる心理的変化があるのかを調べました。

どちらのグループも幸福度が向上、ネガティブ気分も減少

さて、この日記実験でどんな心理的変化が起こったでしょうか。計測した指標のデータに対して、時間(週)とグループ(感謝日記、良いこと日記)を要因とした反復測定分散分析を行ったところ、感謝特性には変化がありませんでしたが、幸福度、気分尺度、学習モチベーションでの変化が統計的に示されました。

 

まず幸福度ですが、次の図を見てわかるように、グループ(日記のタイプ)に関係なく週を追うごとに上がっているのがわかります(p < 0.01)。推測される理由は、実験期間が推薦入学が決まってから大学に入るまでの春休みだったので、どちらのグループもだんだん幸福度が上がった、もしくはどちらのグループも日記を書くということで幸福度が上がったなどが考えられます。いずれにしても、日記の内容による差は幸福度の変化には現れませんでした。

幸福度は時間とともに向上

気分の変化も認められました。ネガティブな気分を示す指標の変化を次の図に示します。グループに関係なく週を追うごとに、ネガティブな気分が減少しています(p < 0.01)。特に4週目と9週目のスコアには有意な差が認められました (p < 0.05)。

ネガティブな気分が時間とともに減少

このように、どちらのグループの高校生も実験期間中に幸福度が向上し、ネガティブな感情が減少しました。しかしながら、日記のタイプ(「感謝日記」か「良いこと日記」)による差はこれらの指標には現れませんでした。

感謝グループだけ学習モチベーションが長期に維持される

さて「感謝をすると学習モチベーションに良い影響がある」という仮説は支持されたのでしょうか?

はい。ありました!

次の図を見てください。9週間にわたる実験期間で、「良いこと日記」群の高校生の学習モチベーションはだんだん下がっているのがわかります。それに対して、「感謝日記」群では学習モチベーションが維持されています。

統計的には、まず時間(週)とグループとの交互作用が有意(p < 0.05)であったので、単純主効果をそれぞれのグループで調べました。「良いこと日記」群では週を追うごとに学習モチベーションが有意に低下していました(p < 0.01)が、「感謝日記」群では変化が認められませんでした(p > 0.05)。つまり学習モチベーションが長期に渡って維持されています。

感謝をすると学習モチベーションが長期に維持される

「良いこと日記」群には、いったい何が起こっていたのでしょうか。

学習モチベーションはSDI (self determination index)という指標を使って計測していますが、これは「自律的モチベーション、他律的モチベーション、非モチベーション」の3つの要因から成り立っています。「あなたはなぜ大学に行くのですか?」という問いに、自律的モチベーションは「新しいことを学ぶことで、喜びや満足を経験できるから」、他律的モチベーションは「将来の方向を決めるときに、より良い選択をするための助けとなるから」、非モチベーションは「正直に言ってわからない。学校では、時間を本当に無駄にしていると思う」といった回答に対する同意度(7段階)で計測しています。

自律的モチベーションをポジティブ要因、他律的モチベーションと非モチベーションをネガティブ要因として変化を調べてみると、「良いこと日記」群ではポジティブ要因が週を追うごとに有意に下がっていることがわかりました(p < 0.01)。つまり、「良いこと日記」群の学習モチベーションの低下は、自律的モチベーションの低下に原因があることがわかりました。「感謝日記」群には、この低下がみられなかったため(p > 0.05)、感謝することで、自律的モチベーションが維持されることが示唆されました。

 

まとめ - 感謝日記は高校生にもおすすめ

この研究では、若い人(ここでは高校生)の学習モチベーションが、長期間には低下しやすいことが確認されました。これに対して、「感謝日記」が学習モチベーション、特に自律的モチベーションを維持させる効果があることを実験的に示しました。

「良いこと日記」の効用も多く報告されていますが、「感謝日記」という媒体を利用して感謝をする行為を促すことは、特に学習モチベーションに良い影響を与えるようです。

高校生の皆さん、高校生をご指導している先生方、どうか「感謝日記」を学習モチベーションを維持させるツールとして活用してください。若い人たちのモチベーションの長期間の維持という難しい課題に対して、私たちの研究が少しでもお役に立てるならばこんなにうれしいことはありません。

勉強へのモチベーションを上げる感謝の気持ち

 

f:id:n_yamagishi:20210518004136j:plain

Nagannu island, Okinawa

 

やる気が出なーい!

ふと、気がつくと、やらなければいけないことと違うことをやっていた。そんなことがよくありますよね。学校では、オンライン授業が行われ、職場ではリモートワークが導入され、私たちの学びや働く環境は大きく、時間的、空間的に「自由」な方向に変化してきています。

 

こんなとき、「モチベーション」が成果を出すために、重要な役割を持ちます。

京セラ、そしてKDDIを作られ、JALの再生を果たされた稲盛和夫氏は、「人生や仕事の結果」は、「考え方と熱意と能力」の3つの要素の掛け算で決まると言っています*1。この要素のうち、「熱意」と「能力」は、それぞれが0から100までの点をとります。ところが、「考え方」は-100から+100までの点数です。これらを、掛け合わせますから、「考え方」次第で、人生や仕事の結果が180度違ってしまいます。

 

ここでいう、考え方は、生きる姿勢であり、モチベーションだと思います。なぜ、それをやるのか、と自問したときの答えです。大学生であれば、なぜ、あなたは大学に行くのですか、という問い、への答えです。さてそれでは、好きな時間に、カフェで勉強したり、仕事をしてもいい時代に、モチベーションを上げるにはどうしたらいいのでしょうか。モチベーションを向上させ、それを維持する秘訣はあるのでしょうか

感謝の気持ちが勉強へのモチベーションを上げる

はい、あるのです。勉強へのモチベーションを、感謝の気持ちが上げてくれるのです。さらに、一度上がったモチベーションは、数ヶ月たっても維持されるのです。

 

共同研究者のNawaさんと私は、感謝の気持ちを持つことの効果を調べるオンライン実験を行いました。実験参加者は84名の大学生と大学院生です。参加者のみなさんをランダムに実験群とコントロール群に分けました。実験群の参加者さんには1日1回、2週間、クラウド上の日記システムにその日「感謝」したことを書いてもらいました。コントロール群の参加者さんは日記なしで過ごしてもらいました。さて、この実験の前後でさまざまな心理指標を計測したのですが、実験群とコントロール群で、唯一、差があった指標が「学習モチベーション」だったのです。

f:id:n_yamagishi:20210722104307j:plain

感謝による学習モチベーションの向上と維持

「感謝」の日記をつけると、2週間で、学習モチベーションが有意に向上しました。そして、その効果は1ヶ月後、3ヶ月後までも維持されることがわかったのです。

bmcpsychology.biomedcentral.com


いったい、感謝日記によって何が起こったのでしょうか。学習モチベーションの計測は、「あなたはなぜ大学に行くのですか?」という問いに、具体的な28の質問に7段階 [1 (まったくあてはまらない) - 7 (とてもよくあてはまる)]で答えてもらうことで行います。それらの質問項目は3つのカテゴリーからなっています。(1) 内発的モチベーション(例: 新しいことを学ぶことで、喜びや満足を経験できるから)、(2) 外発的モチベーション(例: 将来、より名声のある職業に就くため)、(3) 非モチベーション (例: 正直に言ってわからない。学校では、時間を本当に無駄にしていると思う)です。今回の実験では、感謝日記によって、これらのカテゴリーのうち(3)の非モチベーションが有意に下がることがわかりました。つまり、「無気力」が下がる(意欲的になる!)ことがわかりました。

 

ところで、学生さんたちはどんな「感謝」の日記を書いていたのでしょうか。数行のことばを、一日に2-3個書いてくれた人がほとんどでした。内容は、特に勉強のことを書いているのではなく、「友だちとの約束に遅刻したが、待っていてくれてありがたかった」というような、日常の出来ごとへの感謝のことばが綴られていました。日記中の頻度の高いトップ10単語は、「友だち、母親、先輩、バイト、ご飯、自分、天気、両親、雨、店員」でした。単語解析の結果をワードクラウドで示します。単語の大きさが頻度を表しています。大学生たちの日常をちょっと見ることができる気がしますね。

f:id:n_yamagishi:20210722115929j:plain

感謝日記の単語解析結果

このような振り返りと感謝の気持ちが、勉強へのモチベーションにつながるとは、とても興味深い結果でした。みなさんのモチベーション向上に、この研究の結果がお役にたてばうれしく思います。

まとめ - 勉強へのモチベーションを向上させるには (やってみよう)

  •  感謝日記(2-3行の記録を2-3個)を、一日一回、2週間書いてみる。
  •  その後、3ヶ月くらいは何もしなくて大丈夫。
  • 学生さんだったら、ちょうど学期の始めの2週間を「感謝」週間としてはどうでしょうか。

 

ご参考: 報道発表の原稿

f:id:n_yamagishi:20210521001113j:plain

Nawa & Yamagishi, 2021 (BMC Psychology)

 

*1:人生・仕事の結果=考え方x熱意x能力

www.kyocera.co.jp

感謝から見るJAL再生

f:id:n_yamagishi:20201019000544j:plain

八瀬 2020 初秋 Kyoto

激動する社会を⽣き抜く⼒をつけることを⽬標として、「感謝」感情の科学というゼミナールを⼤学で始めました。その中から、ぜひ皆さんにも知ってももらえたらいいなと思うことをこのブログでお伝えします。今回はJALの再生を感謝から考えます。

JALの破綻 2010年1月

2010年1月、JALは事業会社としては戦後最大の2兆3221億円の負債を抱えて破綻しました。しかし、この話を授業でしても、学生さんたちはキョトンとしています。「え、知らないの」と正直思いましたが、2020年現在、大学生である彼ら彼女らは、2000年前後の生まれで当時10歳くらい、この事実を認識していない人がほとんどなのです。

 

今年のゼミナールでは、学生さんたちがグループプロジェクトに取り掛かる前に、立命館大学稲盛経営哲学研究センター客員教授の金井文宏先生に、「JALの再生は利他の心から」という講義をしてもらいました。金井先生は実際にJALの方々へインタビューを行い、JALの再生を意識・行動改革の面から研究をされています*1。先生から、会社が倒産するということは、社会的にも社員にとっても、本当に大変だったことが紹介されました。パリ・シャルル・ド・ゴール空港に着陸直前に倒産を知ったキャビンアテンダントの方は、日本に帰れるのだろうかと本当に心配したそうです。今でこそ、JALの再生をみんな当たり前のように思っていますが、当時JALの再建は、誰にもできないだろう、と言われていたそうです。学生さんたちは目を丸くして、驚いた表情で話に聞き入っていました。

JAL奇跡のV字回復

私は、JALに何が起こったのか、をまず正しく学生さんに知ってもらいたいと思いました。そこで、一緒にJALのホームページを見ました。IR(Investor Relations)情報のページを見ると、JALの業績推移がわかります。一部ホームページで見つからない情報は、「JALの奇跡」(大田嘉仁、致知出版、2018)*2を参照させてもらいました。

f:id:n_yamagishi:20201026014128j:plain

JAL業績推移(2006-2019年度)

これが営業利益率の推移です。2009年度に-10.9%になり、2010年1月に破綻します。しかし、その翌年、2010年度には13.8%と大幅な回復をみせ、以降、2011年度から2018年度までの営業利益率は11.8%から17.0%と非常に高く、世界でも有数の優良企業となっています。コロナ禍となった2019年度でも7.1%でその強さを示しています。2019年度の自己資本率*3も58.9%、2020年9月期でも44%と高い安全性を示しています。正にV字回復です。いったい、2010年度に何が起こったのでしょうか。 

 

その年、JAL再生のため政府からの強い要請を受け、京セラ・KDDI創立者の稲盛和夫氏がJALの会長に就任したのです。周囲からの強い反対がある中、3つの大義があると考え、この依頼を受ける覚悟を決めたそうです(大田、2018): (1) 二次破綻による日本経済への悪影響を防ぐ、(2) 残された社員の雇用を守る、(3) 正しい競争関係を維持し国民の利便性を守る(大手が一社だけになった場合、競争がなくなり運賃やサービスに影響がでる可能性がある)。稲盛さんはJAL再生に人生をかけて取り組み、「フィロソフィー*4と「アメーバ経営*5を携えてJALにいかれました。

 

金井先生の講義に話を少し戻します。先生のインタビュー調査によると、一度破綻した会社は、心に影響が出てしまうそうです。そこで、まず意識改革が進められ、JALフィロソフィー*6が全社員の心の拠り所として制定されたそうです。これは、京セラフィロソフィーを参考に、しかしJAL独自の、40項目からなるフィロソフィーです。第一部は「すばらしい人生を送るために」、第二部は「すばらしいJALとなるために」です。この中で、金井先生のお話によると、インタビューした方々の好きなものは、「渦の中心になれ」(愛称「ウズチュウ」、ネズミくんが渦の中心にいるイラストで親しまれている)、「人間として何が正しいかで判断する」、「最高のバトンタッチ」だそうです。授業では、学生さんに、こんなことが当てはまるという経験はありませんか、とグループでの話し合いが始まりました。ありました!みんないろいろ体験しているんですね。アルバイト先で自分のノウハウを仲間に教えて月の売上高を更新したとか、部活動でボールの一投一投がバトンタッチとなったとか、文化祭でビジョンを共有して成功したなどなど。先生から、今後はこれらをフィロソフィーとして「自覚」して、「実践」し、自分のものとなるよう「学んで」行ってくださいとのメッセージが送られました。

 

この講義の後、zoomの部屋に最後まで残った学生さんがいました。質問でした。「どうしてJALの利益率は高いのですか?」わぁ、すごくいい質問です!話の中心がフィロソフィー(意識改革)だったので、そこが疑問に残ったようです。経営学部の学生さんかと思ったら、総合心理学部の一年生でした。「アメーバ経営」(部門別採算制度)導入の話をしましたが、グループプロジェクトの課題を出す前に学生さんに先を越されてしまいました。プロジェクトでは、こころと経営面の両方を見て欲しかったのです。一年生、すごいなぁと関心してしまいました。

グループプロジェクト: JALの再生 - 経営面と精神面から

今回のグループプロジェクトは、「経営面と精神面からJALが再生できた理由を調査研究する」としました。2週間のプロジェクトで、最後にグループ発表です。必須項目として次のことをあげました。

1. JALに何が起こったのか(2010年)、2. 倒産から奇跡の復興を遂げられたのにはどんな要因があったのか、経営の観点と感謝感情という観点を含める、3. 信頼できる情報を使う(JAL IR、信頼できる記事や本など。参考文献、出典を明記する)

学生さんの所属は、経営学部と総合心理学部が半々くらいなので、各グループに両学部が混ざるようにしました。前述の大田さんの本の紹介や、JALのホームページを一緒にみたり、金井先生の講義があったりしましたが、ちょっと難しい課題かなと、内心少し心配でした。

グループ発表: 経営における感謝

「JALがもう一度飛べた理由」、「JALの復興と感謝感情」、「JALはなぜ復興できたのか」、各グループの発表はタイトルも内容もそれぞれでした。まず、JALに何が起こったのかという問いに、2000年くらいからの各種の経営指標を示して解説をしてくれたグループ、JALとANAの財務分析をそれぞれのIRページから情報をまとめて収益性、安全性、効率性として発表してくれたグループ、経営破綻の要因を分析してくれたグループなどなど、とても学部生の発表とは思えないような高いレベルの分析、発表でした。

 

さて、JALの再生の経営面と精神面からの分析ですが、どのグループもアメーバ経営(部門別採算制度)とJALフィロソフィーの導入をあげてくれました。アメーバ経営については、小さな組織(アメーバ)ごとに「売上最大、経費最小」に取り組んだこと、アメーバのリーダーの重要性や、アメーバにより全員参加の経営が可能となったことが報告されました。破綻前は飛行機が一便飛ぶのにいくらかかるか知らなかったパイロットが、アメーバ経営導入後はマイカップ持参で勤務する話や、臨時便を飛ばす判断も採算意識で行う話などが紹介されました。

 

精神面では、どのグループもJALフィロソフィーの制定をあげていました。その中で、あるグループのスライドが全く違うもので目を見張りました。麦わら帽子をかぶる少年が海を見つめる後ろ姿です。「稲盛和夫の少年期」とあります。結核にかかったり、受験に失敗する稲盛さんの少年期の紹介です。次に京セラ時代の走り続ける稲盛さんが紹介され、最後に稲盛さんの謙虚さの逸話と感謝に対する考え方が紹介されます。そして、「感謝の感情は謙虚でなれば生まれない。稲盛さんは経営は多くの人の手によって成立するもので、感謝の感情がなければ、より良い経営をすることはできないと知っていたのだろう」と発表は結ばれました。聞いていて、心打たれました。以前、「感謝の気持ちはすべての根源である」と稲盛さんが講演で話されていた、と京セラの人から聞いたことを思い出しました。そういえば、京セラフィロソフィーにも、KDDIフィロソフィーにも、JALフィロソフィーにも「感謝の気持ちをもつ」があります。感謝の気持ちが、JALの意識改革の大きな要因になっていたことは間違いないと思います。

 

学生さんたちは、本当に多様です。「稲盛さんに挑む」グループも出てきました。ありがとう、を言い過ぎるとその価値が下がってしまうのではないか、顧客満足や利他を優先した感情労働で、逆にストレスがおきてしまうのではないか、といった質問です。うーん、なかなかの質問です。稲盛さん、なんとお答えになるでしょうか。

フィロソフィーとアメーバ経営

フィロソフィーあってのアメーバ経営、と発表してくれたグループがありました。JALは、まずフィロソフィーを導入し、それからアメーバ経営を導入しました。京セラはアメーバ経営が先で、そのあとにフィロソフィーが制定されました。どちらが先がいいのか、という議論があるようですが、どちらが先でも管理会計手法のアメーバ経営が「部門別採算制度」なので、自分の部門の利益を最高にしようとして「部分最適」に陥る可能性があります。そこで、どうしても「こころを一つ」にするために、みんなのこころの拠り所となれるフィロソフィーが必要になるようです。JALの方から最近聞いた話ですが、「フィロソフィーのある会社に入ってよかった」と破綻・再生を知らない若い社員さんも言っているそうです。今回みてきたように、JALの再建は誰にもできないと言われていましたが、フィロソフィーとアメーバ経営、そして、それにかかわったすべての人により実現がなされました。私はひそかに、やっぱりフィロソフィーがあったからかなぁと、思っています。MBAでは教えてくれなかったことですが、こころが経営に現れるのですね。常に周囲への感謝の気持ちをもつことで、人と人がお互いに信じ合える仲間となって仕事を進めていくことが大切なのでしょう。感謝はすべての根源である、というのは本当のように思います

 まとめ: 「やってみよう」

すばらしい人生をおくるために

JALフィロソフィーを読んでみる

www.jal.com

② JALフィロソフィーを参考に自分フィロソフィーを作ってみる

③ 自分フィロソフィーを手帳に書く (自覚)

④ ものごとの判断をするときに、自分フィロソフィーに合っているか自問する (実践)

⑤ 定期的(例えば週に1回)、自分フィロソフィーをみる時間を作る (学ぶ)

*1:RITA vol5を参照: JALフィロソフィー教育。再生への推進力

www.ritalabo.jp

*2:「JALの奇跡」(大田嘉仁、致知出版、2018)

online.chichi.co.jp

*3:返済の必要のない資本で、会社の安全性を評価するうえで最も基本となる分析指標。50%を超えるとかなり良好な状態いえる。

*4:京セラフィロソフィー

www.kyocera.co.jp

*5:アメーバ経営: 部門別採算制度

www.kccs.co.jp

*6:40項目からなるJALフィロソフィー

www.jal.com

感謝で明るく: 感謝を伝える旅 Gratitude Journey

 

f:id:n_yamagishi:20200921184722j:plain

                                                                                                            床 2020 夏 Kyoto, Japan

この激動する社会を生き抜く力をつけることを目標として、人生のデザインの中で軸となる考えを確認し、それに「感謝」を基本とした生き方を、講義とプロジェクトを通じて身につけてもらいたいと思い、「感謝」感情の科学というゼミナールを大学で始めました。その中から、ぜひ皆さんにも知ってももらえたらいいなと思うことをこのブログでお伝えします。

感謝の旅

今回はGratitude Journey (「感謝の旅」)を一緒に考えます。次のTEDトークは、アメリカのジャーナリストで作家のAJ Jacobsさんのものです。朝の一杯のコーヒーが自分に届くまでに関わるみんなに「Thank you」(ありがとう)カードを渡しに行く、という旅の話です。きっかけは、食事の前のお祈りをしている時、小さな子どもさんに「ここでいくら感謝の気持ちを言っても誰にも聞こえないよね」と言われたことだったそうです。14分の素晴らしいトークですのご、ご紹介させていただきます。

 


My journey to thank all the people responsible for my morning coffee | A.J. Jacobs

感謝の旅プロジェクト2019年

さてゼミナールでは、3-4人のグループを作り、グループごとにGratitude Journey (「感謝の旅」)を始めてもらいます。2週間後にグループ発表です。学生さんたちが選んだテーマは千差万別、私の予想をはるかに超えて、みんなイキイキと本当に旅に出てくれます。こんなに今の大学生って積極的だったのですね。2019年は「生協食堂のカレー」、「図書館の本たち」、「学校のコピー機」、「駅 - 感謝は続くよどこまでも」などなど。手作りの「ありがとう」カードも表彰状みたいなものから、かわいらしい絵のついたカードまで。そして、分析が素晴らしいのです。Jacobsさんのように、登場する全員にカードを渡しにはいけないのですが、一連のものと人の流れが大河のように描きだされているのです。そして、実際に、何人かにはカードが届けられました。

感謝の旅プロジェクト2020年*

2020年は、コロナ禍であり、様子は一変しました。正直、このプロジェクトができるか心配でした。授業もリアルタイムのオンラインです。しかし、本当に学生さんたちは創造性が高く、行動的です。さて、学生さんたちが選んだテーマは、「映画やアニメを視聴できるまで」、「大学の図書館から本が届くまで」、「スポーツ飲料が飲めるまで」などなどです。そして、「ありがとう」カードのお届けは、メールや電話になりました。2020年春学期、すべての授業がオンラインになり、大学は閉鎖されたため、大学は図書宅配サービスを始めました。これが、どんな仕組みになっているのかを調べ、関わる皆さんに「ありがとう」メールが送られました。映画配信会社や、スポーツ飲料のメーカーにもメールをし、それを運ぶ車や、道路標識を描いている会社にまで「ありがとう」のメッセージが届けられました。そして、このように安心していろいろなことができるのは、家族のお陰と、お母さんにも「ありがとう」カードが届けられました。2020年、様子は一変しました。オンラインプロジェクトで「ありがとう」を伝える範囲がとてつもなく広がったと同時に、とても身近な人にも心が伝えられました。

感謝の旅 グループ発表

Gratitude Journey「感謝の旅」は、学生さんにも私にも、毎日自分に起こっていることを改めて考える機会となりました。そして、グループ発表では、「ありがとう」を届けた相手の人から言われた言葉や様子が伝えられました。JRで働いている方からは、福知山線の事故の年、安全を守りたいという思いから入社したという話を、涙とともに聞いたことが伝えられました。また、道路標識を作成している会社からは、長い間この仕事をやっているが、「ありがとう」と言われたのは初めてだといわれたそうです。学期の終わりにアンケートをとったら、「感謝の旅」をもう一度やりたい、という言葉がありました。

 

そう、なんだかみんな、このプロジェクトが好きだったようです。そして、みんなの顔が明るくなったのです。大変なプロジェクトだったと思うのですが、その話をする、みんながイキイキと元気になっていました。

もし、ちょっと「明るくなりたい」と思う時があったら、Gratitude Journey「感謝の旅」をやってみてはどうでしょうか。「ありがとう」カードは手書きでも、メールでもいいのです。それを誰かに届ける旅です。そして、その体験は、また誰かに話してみてください。

まとめ: 「やってみよう」

明るくなるために1

Gratitude Journal「感謝の旅」をやろうと思う

② 対象とする身近なものを一つ選んでみる

③ それがどうやって、自分のところに届くのかを書き出してみる

④ 関係する人(一人でもいい)に、「ありがとう」カード(メッセージ)を送る

⑤ この体験を誰かに話す